![]() 『彩(エイジャ)』 1977.9 Black Cow / Aja / Deacon Blues Peg / Home At Last / I Got The News / Josie スティーリー・ダンの最高傑作。洗練されたポップスという範疇とは明らかに一線を画している名盤。 前作によってフュージョンやファンクという目指すべき方向を自覚したとはいえ、それらを超えたこの途方もない完成度の高さは決して計算されたものではないはず。ウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンだけでなく、参加ミュージシャンのアイデアや感性をも含めた音楽的実験によって、偶然に生み出された最良の結果を煮つめていったものであろう。もはや開き直りともいえる。洗練だけではない躍動感に満ちている。 ことさら参加ミュージシャンの豪華さを取り上げる向きもあるが、単にビッグネームが名を連ねただけの作品なら他にいくらでもある。この作品が素晴らしいのは、名前以前に才能ある人間の感性のエキスが満ちているからなのだ。 以前、チャック・レイニーは雑誌のインタビューでこう語っていた。「フェイゲンは曲の断片だけをミュージシャンに提示して、いろいろと演奏させてはそれをつないで一つの曲にまとめていった」、「『エイジャ』は彼一人の手柄ではない」。 この作品の制作を回想したドキュメンタリー・ビデオ『彩(エイジャ)』は必見である。 Black Cow 「ブラック・カウ」 もうド頭でイッてしまいマス。最初の1小節だけでもう世界に引きずり込まれてしまう。このなんとも重ったるいグルーヴと浮遊する調性感。そしてヴィクター・フェルドマンのローズのソロも秀逸。最後のサビからAmaj9のコーダへの移調は歌詞の展開に合わせたポップス的お約束だが。フェイゲンがピアノの弾き語りで録ったデモバージョンの時点でキメとそのコードまできっちり作られていたのには驚いた。 Aja 「彩(エイジャ)」 スティーリー・ダンの音楽を表わすのに「エキゾチック」というキーワードもあるが、この曲はそのエキゾチックさの、洗練に洗練を重ねた偉大な結晶である。ポップスとしては実験的で長尺だが、本作のテーマとしてふさわしい美しいワビサビの世界と音楽的爆発が堪能できる。テナーサックスとドラム・ソロの締めのコード進行はF7911からの半音平行降下。彼らの曲にはこういう幾何学的進行が多い。 Deacon Blues 「ディーコン・ブルース」 彼ら本来の穏やかなポップス。ピート・クリストリーブのサックス・ソロがよい。イントロのコード進行はCmaj7→Bm7#5からの平行移動。3コーラス目の「Sue me if I play too long(あまりにクドく長すぎたら訴えてくれ)」という歌詞は、そのままこの曲に当てはまる。ジェフ・ポーカロは、この曲のバーナード・パーディのドラム演奏における「ゴースト・ノート(ノリを出すための、ほとんど聞こえない微弱なスネアの音)」を絶賛していた。 Peg 「ペグ」 軽快で明快な名曲。なんといってもキャッチーなイントロに尽きる。そして軽快でタイトにグルーヴするリック・マロッタのドラムとチャック・レイニーのベース。ジェイ・グレイドンのギター・ソロが有名だが、ドキュメンタリー・ビデオでは別人のボツテイクも聴ける。イントロのコード進行は69→m7#9による平行移動。この曲で歌われている女性は、実はポルノ女優だった、という愉快な解釈もあり。「麗しのペグ」が旧邦題。 Home At Last 「安らぎの家」 曲の骨格は垢抜けないスロー・シャッフルなのだが、素晴らしく洗練されている。バーナード・パーディーは偉大なり。ハーフタイム・シャッフルの素晴しすぎる手本である。パーディーが共作のクレジットを要求した気持ちもよくわかる。シンセ・ソロへつながるキメがすばらしい。ベッカーのヘタウマのギター・ソロもいい味。 I Got The News 「アイ・ゴット・ザ・ニュース」 奇怪で軽快なヴィクター・フェルドマンのピアノ・リフが特徴的。エド・グリーンのワンパターン・オカズもいい。ウマいラリー・カールトンのギター・ソロと、ヘタウマのベッカーのギター・ソロの対比も愉快。もとは『ロイヤル〜』以前に形になっていたが、これとはまるで違う曲である。 Josie 「ジョージー」 これまでの作品に収められていたブルース調の曲が洗練されるとこうなる。洗練されても嫌みにならないギリギリの線。ジム・ケルトナーの目に見えるようなスティックさばきが秀逸。情けないギター・ソロはベッカーということだが、ラリー・カールトンも気に入っているらしく自己の作品でカバーしている。 ←紙ジャケ限定盤が6/25発売
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