CAN'T BUY A THRILL
『キャント・バイ・ア・スリル』
1972.11

Do It Again / Dirty Work / Kings / Midnite Cruiser / Only A Fool Would Say That
Reeling In The Years / Fire In The Hole / Brooklyn / Change Of The Guard / Turn That Heartbeat Over Again

 ウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンの暖めていたアイデアの具現化は叶ったが、そこには大衆性との葛藤と敗北が感じられる。荒削りな音の中に込められた新奇な音楽への情熱をいかに形作るか、音楽産業の「商品」となった2人が、いかにして「作品」としての自己を取り戻し、磨き上げられた「商品」に変わっていくのか、その後をたどれば興味深いものがある。
 とはいえ、そうした後付けの解釈を無視して聴くべき作品。「ドゥービー・ブラザーズはマイケル・マクドナルド以前と以後どっちが好きか?」というようなものだ。


Do It Again 「ドゥ・イット・アゲイン」
 デニー・ダイアスのエレクトリック・シタールのソロもさることながら、変なオルガンによるフェイゲンのソロもなかなか奇妙でいい味を出している。最近のライブではフュージョンがかったアレンジでやっているが、それもまたよし。イントロを聴くと足を踏み出して床を光らせるのはマイケル・・・。

Dirty Work 「ダーティ・ワーク」
 デビット・パーマーのボーカルは悪くいわれるが、そんなに悪いとも思わない。凡庸といってしまえばそれまでだが。もとは他人向けに作った曲で、良質のアメリカン・ポップスといった趣。カバー・バージョンも何曲かある。フェイゲンはこれを超えるカバーを作ってほしいそうだが。

Kings 「キングス」
 けっこう時代を感じさせる曲だ。エリオット・ランドールの狂おしいギター・ソロも聴きどころだが、中途半端なエンディングがまたよい。

Midnite Cruiser 「ミッドナイト・クルーザー」
 これも時代を感じさせる。曲と演奏もさることながら、ジム・ホッダーの歌声で垢抜けなさ三倍増。それにしてもホッダーの歌声はカントリー臭い。まるでウイリー・ネルソンみたいだ。

Only A Fool Would Say That 「オンリー・ア・フール」
 曲もいいし、なんといっても軽くて爽やかなラテン風味のアレンジがよい。ダニー・ウィルソンの「メアリーズ・プレイヤー」は、これにインスパイアされた曲、と私は解釈している。

Reeling In The Years 「リーリング・イン・ジ・イヤーズ」
 これぞアメリカの大向こうをうならすブギー。こういう曲を今のフェイゲンはどう思っているんだろう。そもそもフェイゲンは初期の曲を否定しているらしいが・・・。それでも今なおライブの定番。当時なんとジミー・ペイジがこのランドールのギター・ソロを一番気に入っていたとか。気持ちはわかる。ペイジならもっと強烈なタイム感で弾きそうだ。

Fire In The Hole 「ファイヤー・イン・ザ・ホール」
 なんかデモテープを感じさせる曲。このピアノにフェイゲンの趣味を強く感じる。非常に泥臭い曲なのに、粘り気のないドラムが物足りない。

Brooklyn 「ブルックリン」
 デモテープ版のほうがショボくていいかも。パーマーのボーカルが味も素っ気もなくてつまらん。ジェフ・バクスターのペダル・スティールは味わい深いが。

Change Of The Guard 「チェンジ・オブ・ザ・ガード」
 エレピのリフが小気味よい陽気なポップス。「ランララ〜」という一節がちとバカっぽいが、それがポップス。

Turn That Heartbeat Over Again 「ハートビート・オーヴァー・アゲイン」
 う〜ん好きだ、このなんともいえない微妙な侘びしさと垢抜けなさ。後の『ケイティ・ライド』に通ずる世界がある。各自の歌は笑っちゃうほど下手。しかしメチャクチャなコード進行と展開も、きっちりメロディアスに構成されたギター・ソロもいい。左右のボーカルが歪んでいるのが残念。


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