EVERYTHING MUST GO
『エヴリシング・マスト・ゴー』
2003.6

The Last Mall / Things I Miss The Most / Blues Beach / GodWhacker
Slang Of Ages / Green Book / Pixleen / Lunch With Gina / Everything Must Go

 今回は全曲同一ミュージシャンのバンド一発録りによるアナログ・レコーディング。前作ではいざレコーディングとなってもブランクが長過ぎたせいで勘が戻らずに苦労したというが、今回は復帰二作目だし、ツアーもしっかりこなした後ということもあってそのようなとまどいはなかったようだ。フェイゲンの声もしっかりと出ているのに一安心。
 前作との大きな違いはリラックス感というか肩肘張らない「自然体」を感じさせる点。若き情熱の爆発はないが、いい年をして無理に新しい創造意欲や挑戦姿勢を見せるのではなく、原点に返って自分たちにとって好ましい音楽を作ってみたよ、という気楽さ。バンド一発録り、アナログ録りだからなおさらそういった「セッション感覚」のいい雰囲気が聴き手にも伝わってくる。
 ただ正直言ってメロディが弱い曲、押しが弱い曲が多い。年齢とともに感性の鋭さやほとばしる情熱が失われてしまうのは自然の摂理で仕方がないが、曲、アレンジ、歌詞はまさしくスティーリー・ダンの世界。聴き手を驚かせるような革新的要素はないが、すでに長年に渡って確固たる地位とキャラクターを築き、年齢的に創造的感性が衰えてしまっている以上、聴き手を裏切ることのない作品作りを進めてくれたほうが私のような怠惰な音楽ファンにとっては大変ありがたい。
 もうひとつ怠惰な音楽ファンがスティーリー・ダンに期待することといえば大物セッション・ミュージシャンたちの華麗な演奏。だが今やそこに期待するのは無理。まあ、実力派の若手ミュージシャンを起用してはいるとはいえ、さほど個性が感じられないのが辛いところか。彼らとしては若手のほうが気を使わず、個性を抑えて思い通りに操れるからいいのだろうが・・・。
 ただ前作に比べればリズム隊のグルーブ感は大幅に増している。これはアレンジの違いや打ち込みをやめたことだけでなく、ドラマーのキース・カーロックの腕によるところが大きいだろう。前作ではタイトル曲で叩いていたが、彼の腕が生きる使い方をされていなかった。また昔からチャック・レイニーらの陰に隠れて評価の対象から外れていたものの、ベッカーの堅実にラインを踏むベースもグルーブ感たっぷりで個人的には大いに気に入っている。ここは素直に評価したい。
 演奏面で最もとまどうのは前作以上にベッカーのギターが「汚し」の要素としてかなりのインパクトを持っている点だろうか。おまけに今回はベッカーがメインボーカルの曲まである。フェイゲンの「神経質なお坊っちゃん気質」を掻き回すベッカーの「ふざけた汚れ要素」がスティーリー・ダンの音楽にとって非常に重要であることは熱心なファンなら誰もが分かっていることではあるが・・・。
(7/28)


The Last Mall 「ラスト・モール」
 このアルバムのコンセプトと"リラックス感"を印象づける曲。ハイファイな録音でのシャッフルというのは、ともすればエッジが立ってノリが固くなってしまう難しさがあるが、この曲の演奏とミックスはさすがというべき。むしろ大きいのはアナログの力か。ドラマーのキース・カーロックの絶妙なグルーブ感もさることながら、ベッカーのベースが気持ちいいレイドバック感を醸し出している。ギターソロは相変わらず散漫だが。Cメロはこれぞスティーリー・ダンというメロディ。

Things I Miss The Most 「シングス・アイ・ミス・ザ・モスト」
 イントロの管のフレーズは『カマキリアド』あたりから続く手法。曲調もその流れを汲み、あまりインパクトはなくやさしく流れてしまう。陰鬱な世界を描いてる割にはヒネりが少ないような。

Blues Beach 「ブルース・ビーチ」
 第一弾シングルとなったラジオ向けの軽いポップス。あからさまなほど軽い作りで曲は明解だが、さすがに普通のヒットポップスとして聴かせるには無理があろう。相変わらず回りくどい歌詞。コーダでフィーチャーされるキャロリン・レオンハートのキャッチーな声のバックボーカルが印象的だ。

GodWhacker 「ゴッドワッカー」
 速い16ビート。『ナイトフライ』の「グリーン・フラワー・ストリート」を彷佛とさせる。間奏のシンセ・ソロも『エイジャ』から『ナイトフライ』で多用されたハーモニカのようなあの音(やや歪ませているようだが)。おそらくすべてのファンが一聴してカッコイイと感じ、最も違和感なく聴ける曲だろう。

Slang Of Ages 「スラング・オブ・エイジズ」
 スティーリー・ダン名義としては初めてのベッカーのボーカル曲。笑ってしまうが、まあご愛嬌。曲はアルバムに一曲は必ずある奇妙なひねくれポップス。この手の曲自体は結構好きなのだが、アレンジが洗練されすぎるとかえって流れてしまうんだなあ・・・。
 おそらくベッカーが一人で書いた曲なのだろうが、ふと3年前のライブでベッカーが「モンキー・イン・ユア・ソウル」を歌ったことを思い出した。

Green Book 「グリーン・ブック」
 グルーブ感たっぷりにまとまった演奏はなかなかいいが、妄想の歌だとしても起伏も少なくメロディも弱くて押しが弱い印象があるなあ。といいつつ、ミニマル的なクセがあって強く印象に残る。

Pixleen 「ピクセリーン」
 バックの演奏が平坦な分、サビでのレオンハートのバックボーカルがまた耳に残る。本当にこの人の声はアメリカ人好きしそうなキャッチーな声だ。聴きどころは間奏後。かなりメロディが高く、フェイゲンのファルセットもギリギリのところでがんばっており微笑ましい。

Lunch With Gina 「ランチ・ウィズ・ジーナ」
 軽快にグルーブする16ビートのポップス。ライブでおなじみのジョン・ヘリントン、老練ヒュー・マクラッケンという腕利きのギターバッキングが素晴らしい。シンセのソロもかなり暴れていて面白い。ライブで一番映えそうな曲だ。

Everything Must Go 「エヴリシング・マスト・ゴー」
 いきなりドラマチックなテナーサックスのアドリブ。まるでコルトレーンの「至上の愛」かと。狙いでしょうな。打って変わって曲本編はまったりとゆるやかなAOR。これをもって廃業するという内容でこのアルバムを締めくくる。



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