GAUCHO
『ガウチョ』
1980.11

Babylon Sisters / Hey Nineteen / Glamour Profession
Gaucho / Time Out Of Mind / My Rival / Third World Man

 完璧は時として興奮を冷ますものである。この作品が完成度の高さを認められながらも、『エイジャ』より好む人が少ないのは、この興奮の希薄さゆえであると思う。洗練を追求した結果、生身の人間の触感や汗臭さが大幅に失せてしまったように感じる。スティーリー・ダンの音楽はよくも悪くも「ハイブロウ」と形容されることがあるが、まさにそれである。
 また、『エイジャ』の高評価からくるプレッシャーや、当時のウォルター・ベッカーの深刻な麻薬中毒、「セカンド・アレンジメント」の誤消去事件、『エイジャ』の音楽的成功ゆえに独りよがりが高じ、過剰なまでの正確さへの欲求が増したことなどがドナルド・フェイゲンをより一層神経質にさせ、それがサウンド面に反映したのではなかろうか。それを想うと、なかなかに複雑な作品である。
 このアルバムをベストとするかしないかで、その人がフュージョン畑かロック畑かがわかると思うが、いかがなもんでしょう。ちなみに私は後者です。


Babylon Sisters 「バビロン・シスターズ」
 ピックアップのタムでイッてしまう人も多いだろう。このスロー・シャッフルこそ、バーナード・パーディーの真骨頂。「Here come those Santa Ana winds again」の一節がまたたまらん。なんともいえぬ都会の夜の音。ぜひ夜の湾岸高速の有明あたりで聴くべし。

Hey Nineteen 「ヘイ・ナインティーン」
 軽快なポップス。シンプルなリズムながら、キックとベースの合わせがポイント。「That's Aretha Franklin」の後の「mmh」という物真似ハミングが笑える。セッション・ベーシストのバカボン鈴木氏によれば、この曲のベースは最高の教材とか。ベッカーが弾いているけど、何度切り貼りしたのだろうか。

Glamour Profession 「グラマー・プロフェッション」
 ステディな16ビートのドラムにからむ特異なベース・ラインが聴きどころ。曲は英語が直接理解できない身としては冗漫に感じる。フェイゲンは「この曲はどうしてもデモよりいい出来にはならなかった」と言っていたらしいが。

Gaucho 「ガウチョ」
 曲そのものの骨格は明快なポップスなのだが、ハーフタイムのリズムによって非常に大人びた曲になっている。後半の穏やかな盛り上がりがポイント。この曲は後にキース・ジャレットから盗作で訴えられ敗訴、以後は共作者としてジャレットの名がクレジットされている。

Time Out Of Mind 「タイム・アウト・オブ・マインド」
 軽快なリズムの曲だが、グルーヴ感が希薄で平板さを感じてしまう。マーク・ノップラーが参加しているがまったく目立たない。目立つのはやっぱりマイケル・マクドナルドの声。

My Rival 「マイ・ライバル」
 スティーリー・ダンならではのエキゾチックな曲。微妙にユーモラスである。ド頭の妙な感じがいい。ティンバレスもまたアクセントとして効いている。

Third World Man 「サード・ワールド・マン」
 何か疲れ果てて終わってしまった哀愁がある。この曲はもとは『エイジャ』に入れる予定だったがボツとなり、本作では「セカンド・アレンジメント」が消えてしまったため、代わりに録り直して収められた。このアルバムの中で唯一ロックを感じるラリー・カールトンのギター・ソロは以前に録ったテイクのままだとか。せつなげで素晴しい。94年のNKホール公演でギタリストのウェイン・クランツが酷いソロを取ったときには怒ったが、代々木公演の2日目はほぼ忠実に弾いていたので許した。


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