![]() 『うそつきケティ』 1975.4 Black Friday / Bad Sneakers / Rose Darling / Daddy Don't Live In That NewYork City No More / Doctor Wu Everyone's Gone To The Movies / Your Gold Teeth II / Chain Lightning / Any World / Throw Back The Little Ones 前期から後期への過渡期の作品として軽く見られている節があるが、危ういながらもまだ基本的な音世界はヒネくれポップスであり、前期のいい意味で垢抜けないラフさと後期の洗練された緻密さとの微妙なバランスがマニアの心をくすぐる。そのためかフリークと称する人たちには好まれるが、そうでもない人には地味に写るようである。ダニー・ウィルソン、サミュエル・パーディらスティーリー・ダン・フォロワーのテイストがこの作品に近いのは、第三者として見つめることのできる「微妙なバランス」に対する憧憬があるからではなかろうか。 なお、このアルバム全体のサウンドがハイ落ちや変な位相でくすんでいるのは、レコーディング時のdbxの不調によるもので、いわば失敗の産物だそうな。それゆえ、2人はこの作品を忌避しているらしい。 それにしても、この作品でのドナルド・フェイゲンの歌い方はホントにしつこい。 Black Friday 「ブラック・フライデー」 曲は景気のいいブルース調のシャッフルだが、タイトルでもわかるとおり歌詞は景気が悪い。刻み続けるエレピは頑丈な手首のデビッド・ペイチ。ブルース調の曲ではウォルター・ベッカーがソロをとることが多いが、このギター・ソロもしかり。 Bad Sneakers 「バッド・スニーカーズ」 穏やかで味わい深い曲。このギター・ソロはベッカーが弾いた中ではベストの出来といえよう。ヒュー・マクラッケンのバッキング・ギターもいい味。マイケル・マクドナルドのコーラスが目立つのは、この作品に共通した特徴。どうでもいいが「Going Insane」という一節はマクドナルドの他の作品でも聴ける。 Rose Darling 「可愛いローズ」 爽やかなポップスだが、歌詞は・・・。ディーン・パークスのギター・ソロは決まりフレーズ。サミュエル・パーディの「ワン・オブ・ア・カインド」はこの曲をモロに想起させる。 Daddy Don't Live In That NewYork City No More 「親父の嫌いなニューヨーク・シティ」 声かかるのはフランジャーかフェイザーか。ブルース調の曲だが、これが発展すると後の「ジョージー」になるのだろう。バッキング・ギターはラリー・カールトン。 Doctor Wu 「ドクター・ウー」 曲調は地味ながら深く美しく、くすんだ色合いがなんともいえない隠れた名曲。ワン・テイクで録ったというフィル・ウッズのサックス・ソロは絶品中の絶品。同じくウッズが吹いたビリー・ジョエルの「素顔のままで」にも匹敵する。そしてマイケル・オマーティアンのピアノも実に美しい。曲調やコード進行から、これが発展して後の「エイジャ」になったとの解釈もできる。フリークが最も好む曲!? Everyone's Gone To The Movies 「エヴリワンズ・ゴーン・トゥ・ザ・ムーヴィーズ」 ポップで愉快な曲。ジェフ・ポーカロがドロフォン奏者としてクレジットされている。ドロフォンとはバラフォンの亜種か。こもったマリンバ風の音がそれだと思うが。最後のサビの前に「start the projection machine」という一節があるが、これが「stop the projection machine」に聞こえるという説があった。たしかにそう聞こえるが、ニューヨーカーは「-ar」の音を短く発音するという言語地理学に基づいた意見も。もし「stop」が正解なら、そちらのほうが意味深。ボツバージョンを聴くと「stop」に聞こえる。 Your Gold Teeth II 「ユア・ゴールド・ティースII」 こういうハチロクの曲がもっとあってもいいと思うのだが。なかなかの難曲でレコーディングはてこずったらしい。デニー・ダイアスはこういうバップ調のギター・ソロがうまい。リズム隊はポーカロとチャック・レイニー。ちなみに海賊盤ライブに収められている前半部分だけのインスト・バージョンはけっこうキテる。 Chain Lightning 「チェイン・ライトニング」 最近のライブでも必ずやる、お手軽ブルース。もちろんただのブルースではないのだが。ギターはリック・デリンジャー。 Any World 「エニー・ワールド」 デモテープから日の目を見た曲。絶妙に入ってくるオルガンが哀愁味をそそる。やはり目立つのはマイケル・マクドナルドのコーラス。この曲はダスティ・スプリングフィールドが歌うのをイメージして作った曲だとか。 Throw Back The Little Ones 「スロウ・バック・ザ・リトル・ワンズ」 地味な曲だが、妙なコード進行と侘びしさがたまらない。特にテーマ部分のシンセとラッパの絡みが侘びしい。エリオット・ランドールのまさに彼らしいギター・ソロもワビサビが明確で素晴らしい。エンディングのクラシカルなピアノはマイケル・オマーティアンのアイデアによるものだとか。 ←紙ジャケ限定盤が6/25発売
|