THE ROYAL SCAM
『幻想の摩天楼』
1976.5

Kid Charlemagne / The Caves Of Altamira / Don't Take Me Alive / Sign In Stranger / The Fez
Green Earrings / Haitian Devorce / Everything You Did / The Royal Scam

 この作品では穏やかなポップス感覚が失せ、ビートを強調したロック感覚あふれるハードエッジな音作りがなされている。そこには無理にでも過去から脱却しようというウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンの強い意思すら感じられる。フュージョンやファンクへの傾倒はおそらくかねてからのアイデアではなく、流行という外的要因によって今後の目指すべき方向を自覚した結果であろう。「フェズ」でのディスコ・ビートや「ハイチ〜」でのレゲエ・ビートに、流行という「外圧」が一時的なものとして極端に表出している。
 デモテープから掘り起こされた「アルタミラ〜」が、もしこれ以前の作品で完成していたなら、まったく違った趣の曲になっていただろう。
 どうでもいいけど、すべての曲に邦題がついているのがスゴい。


Kid Charlemagne 「滅びゆく英雄(キッド・シャールメイン)」
 名曲。単純な一言でいえばカッコイイ曲である。まず何はともあれ、ラリー・カールトンのギター・ソロが素晴らしすぎる。バーナード・パーディとチャック・レイニーによるリズム隊のグルーヴも出色。そしてドン・グロルニックのクラビネットが隠し味として効いている。デニー・ダイアスは「is there's gas in the car」のフェイゲンのファルセットを聴いて腰を抜かしたとか。

The Caves Of Altamira 「アルタミラ洞窟の警告」
 ブ厚いラッパがよい。間奏前の9/8のキメがポイント。ごく素朴なポップスだったデモテープのバージョンからよくこれだけ変わったものだと思う。

Don't Take Me Alive 「最後の無法者」
 意図的なまでに下世話な曲。まるでアメリカン・ロックに対するパロディ。全体的にラリー・カールトンはロック的に使われている気がするが。96年のライブのアンコール1曲目。思わず笑った。

Sign In Stranger 「狂った町」
 ポール・グリフィンのニューオリンズ風ピアノが光る。サビ後のパーディーのドラムが聴かせる。ラリー・カールトンのバッキングも非常に印象的。ラッパが入って盛り上がるコーダもよし。

The Fez 「トルコ帽もないのに」
 ディスコである。ドラマーはパーディーとのことだが、レイニー曰く「あれはジェフ・ポーカロが叩いていたはずだ」。はたしてポーカロとパーディーのオーバーダブか、それとも差し替えか。ポーカロはけっこうボツが多かったりクレジットがなかったりで辛酸をなめているらしいが。また、クラシック曲のパクリすれすれというシンセのメロディを考えたグリフィンが共作者としてクレジットされているが、その件についてフェイゲンとベッカーで意見が食い違っており、謎。

Green Earrings 「緑のイヤリング」
 当時流行の「クロスオーバー」的な曲。デニー・ダイアスの美しいソロ、バーナード・パーディの「ドチーチーチー」、エリオット・ランドールのワイルドなソロ、そして最後のフランジャー・フィードバック(?)と、演奏の聴きどころが多い。歌はとってつけたような感じだが。キメのメジャー9の平行移動や、歌バックのマイナー7・11の平行移動など、コード進行は幾何学的である。

Haitian Devorce 「ハイチ式離婚」
 レゲエは単なる流行か実験にすぎないのか。ボイス・ボックス(トーキング・モジュレーターのことか)を使ったというギターはディーン・パークス。「ハイチ式離婚」というのは、当時エンジニアのエリオット・シャイナーが実際にハイチで経験したもので、ごく簡単な手続きで離婚が成立するとか。

Everything You Did 「裏切りの売女」
 間奏部分の五拍子が決め手。中途半端なエンディングがよし。聴きようによってはイーグルスの「呪われた夜」に似ていると感じる曲である。もとから意識していたのか、サビの歌詞に「turn up the Eagles」という一節があり、それにイーグルスが応えたのが「ホテル・カリフォルニア」の一節「They stab it with their steely knives」だとか。

The Royal Scam 「幻想の摩天楼」
 絶望にあふれた都市の暗闇。ニューヨークにおけるプエルトリコ不法移民の歌。「city of St.John」とはプエルトリコの首都「サン・ホアン」のことか。日本なら、さしずめ不法滞在イラン人の状況に当てはまる。


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