TWO AGAINST NATURE
『トゥ・アゲインスト・ネイチャー』
2000.2

Gaslighting Abbie / What A Shame About Me / Two Against Nature / Janie Runaway
Almost Gothic / Jack Of Speed / Cousin Dupree / Negative Girl / West Of Hollywood

 ポップ・ミュージシャンにとって感性の旬は二十代前半、せいぜい三十代前半までだと常々思っている。『ガウチョ』当時、ドナルド・フェイゲンは三十二歳、ウォルター・ベッカーは三十歳。スティーリー・ダンが破綻したのは正解であると。それから二十年。五十路となり、ニューヨークやハワイで安楽の日々を過ごすフェイゲン、ベッカー。ハングリー精神が創造にとって大事であるとベッカーも認めてはいるが・・・。
 かつて保持していたポップスやロックとしての単純明快さ、熱っぽさはすっかり影を潜め、曲調はさらに複雑になっている。アレンジ面できっちり派手に計算されたという印象は薄く、ロックやポップスとしての虚飾を取り除いているが、これまでのスティーリー・ダンの変遷を理解すれば、その流れに沿った作品であることがわかる。基本的には『ガウチョ』の延長線上。少ない音数、歪まないギター、シンプルなリズム隊、コール・アンド・レスポンスの多用などなど。これまでと違って面白いのはまるで古い劇伴のようなラッパや木管のアレンジ。彼らのサントラ趣味を如実に反映しているようだ。
 最大のネックはフェイゲンの歌声。これはもう年齢による衰えと言い切ってしまおう。ちょっと意図的とはいえないほど力がないし、ピッチも悪い。アレンジが全体的にソフトなのはこのためか。そして単調なドラムだが、今彼らが求めているのは正確でタイトなリズム・キープであり、あからさまなグルーヴ感ではないということだろう。
 サウンド面は完全にニューヨークの音。空間感覚、打ち込みの使い方などがまさしくそれで、汗臭さや空気感は希薄。ハイファイを追求するのは彼らとして当然のこととはいえ、七十年代の音が今どきの流行でもあり、どうせ打ち込みをやるなら過去のトラックをサンプリングするぐらいの遊び心が欲しかった。
 フェイゲンが無理してでも(?)高いキーで歌っていること(無意識に高いキーで作ってしまうのだろう)、下手なベッカーのギターが目立っていること(フェイゲンの勧めらしい)は、「俺たち二人がスティーリー・ダンなんだ。バック・ミュージシャンはバック・ミュージシャンに過ぎないのだ」という主張なのか。また、曲作りにちょっと冒険が感じられる点で、本作はひとつの通過点なのかもしれない。いろんな部分で『エクスタシー』との共通性をも感じる。
 ただ、今となっては、偉大な過去が七十年代の色彩とともにひとつのまとまりとして存在する以上、この作品の評価はどの時期のスティーリー・ダンが好きか、あるいはどんなジャンルの音楽が好きかで分かれるだろう。ちなみに音がキレイすぎてつまらないと思って音質を落として聴いたら・・・これがガラリと印象が変わるのだ。ぜひお試しあれ。
(2/17)


Gaslighting Abbie 「ガスライティング・アビー」
 これが最も出色の出来。いかにもスティーリー・ダンらしい曲。彼らなりのセンスも詰まっているし、前進も感じられる。ノリ的にも無理がない。イントロが「マイ・ライバル」っぽいが、曲はこちらのほうがいい。クドいギター・ソロは御愛嬌か。

What A Shame About Me 「ホワット・ア・シェイム・アバウト・ミー」
 典型的なニューヨーク系先端ポップス。『カマキリアド』からの流れを感じる曲(デモ曲の「I Can't Function」にも似ている)だが、こちらの方がいくぶん複雑。Bメロの展開なんかはスティーリー・ダンならではでニヤリとさせられる。ところで典型的とはいったが、その土壌の一部は彼らが作り上げたもので、もはやそれを大きく飛び越えられないのが皮肉である。

Two Against Nature 「トゥ・アゲインスト・ネイチャー」
 イントロからして困ってしまうなぁ。失笑してしまう曲だ。フェイゲンのボーカルは速いテンポに乗り切れず、鼻にかかってフラットしまくっているし。いささか稚拙な打ち込みは聴いていて恥ずかしくなる。こういうアプローチは80年代にやっておくべきだろう。リバイバルのつもりではあるまい。しかしこの歌詞の世界こそスティーリー・ダンだ。

Janie Runaway 「ジェイニー・ランナウェイ」
 ブルース風だが奇妙なメロディ・ラインが特徴の奇妙な曲。とはいえ平板。

Almost Gothic 「オールモスト・ゴシック」
 やさしい手触りのポップス。「ディーコン・ブルース」から力を抜くとこうなるのだろうか。ミュート・トランペットの簡潔なソロがいい。いわゆるソフト・ロックの00年代版みたいなものか。

Jack Of Speed 「ジャック・オブ・スピード」
 以前にコンサートでベッカーが歌った曲。本作ではかなり落ち着いた仕上がりになっているが、凡庸なAORみたいでちょっと流れてしまう。ベッカーのバージョンの方が力強くていいかも。そういえばフェイゲンの「センチュリーズ・エンド」に似ているなぁ。とはいえ、詞はベッカー的なネガティブな世界が全開でいい。

Cousin Dupree 「カズン・デュプリー」
 本作では最もわかりやすい。サザンロック風のリフで始まり、シンプルなメロディが軽快に流れる。ベッカーのギター・ソロがちと冗漫。この曲はライブ向きでしょうな。

Negative Girl 「ネガティヴ・ガール」
 穏やかでまろやかな曲だが、ベース・ラインやバッキングのギターが聴かせる。ドラムも派手なインパクトはないが、なかなか凝っている。丁寧に丁寧に紡ぎ上げたという感じで、地味だが非常に出来のいい佳曲。

West Of Hollywood 「ウエスト・オブ・ハリウッド」
 ドラマチックな曲調とメロディ・ラインを持つ新機軸。曲は非常にいい。ベッカーのメロディアスなギター・ソロからブリッジへの展開が素晴らしい。だがやはり単調で速いテンポに乗り切れず、高音が苦しいフェイゲンの歌が気になってしょうがない。そして延々と延々と続くバップ調のサックス・ソロ・・・。しかしそれでもハマってしまう魅力がある。この歌詞はいい。センチだ。過去の自分たちへの回想も含まれているのか。ここから次のスティーリー・ダンが見えるかな?!



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